ゴースト・イン・ザ・シェルを観てきました。
原作は士郎正宗さんの漫画「攻殻機動隊」です。
同じ原作でアニメ映画化された、押井守監督作品「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の影響を強く感じる作品でした。
はっきり言ってオマージュと言っていいような内容でしたが、ただのオマージュに留まらずオリジナルの設定もありながら完成度が高い作品でした。
とても、素晴らしい作品です。
少佐やバトー等の主要キャラクターの日本語吹き替え版キャストには、「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」やTVアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズと同じ声優さんが起用されている事も注目です。
もちろん、吹き替え版を観てきました。
以下、ネタバレがありますので、まだご覧になっていない方はご注意ください。
○ あらすじ
ゴースト・イン・ザ・シェルは「少佐」と呼ばれる女性が主人公です。
映画の世界では、脳をネットワークに繋ぐ事ができる「電脳化」や身体の一部や臓器などを機械化する「義体」が一般的に普及している、未来の世界です。
少佐は脳だけが人間で、身体は完全に「義体化」された身体を持つ女性です。
少佐が「義体化」された経緯は自分の身体を作ったオウレイ博士から、「テロリストに襲撃された難民ボートから救出され、脳だけ生き残ったために義体を与えられた」と説明されますが、少佐には「義体化」される前の「過去の記憶」がありません。
少佐は過去の記憶が無いことに不安を感じています。
昨今、インターネットを使った犯罪が蔓延していますが、映画の世界では電脳化する事で便利になった反面、電脳を使ったテロ犯罪が起こっています。
少佐は、そんな電脳テロ犯罪を取り締まる部隊「公安9課」の隊長です。
少佐はある電脳テロ犯罪の犯人クゼを追うことになりました。
クゼは「ハンカロボッティクス」の研究者を次々と電脳ハックし、殺していきます。
「ハンカロボッティクス」は少佐の身体を作った会社です。
事件を追う内に少佐は「プロジェクト2571」の存在に、気がつきます。
このプロジェクトに関わった研究員が殺されています。
少佐の身体を作ったオウレイ博士もプロジェクトの関係者でした。
事件を追う内に少佐はクゼと相対します、クゼは少佐と同じく脳だけが生身の「義体化」された人間でした。
少佐はクゼに「プロジェクト2571」の事態を告げられます、それは自分の失われていた「過去の記憶」に結びつくものでした。
少佐は正しいと思っていたのは植え付けられた偽の記憶で、本当の自分の「過去の記憶」は奪われていた事を知り驚愕します。
事実を知った少佐は命を狙われますが、戦いに勝利し少佐は「過去の記憶」を取り戻します。
○ 映画の感想
・ キャラクターのデザイン
僕は攻殻機動隊作品をほとんど見ているので、心配していたのが少佐の完成度でした。
でも、そんな心配は無用でしたね。
スカーレット・ヨハンソンさんの少佐はどハマりでした、完全に押井守監督作品「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の少佐でした。
公式パンフレットによるとスカーレット・ヨハンソンさんは少佐役の為に1年にわたって体づくりをしたとあります。
素晴らしい完成度だと思います。
話は逸れますが、実は、原作の少佐とGHOST IN THE SHELLの少佐は結構似ていません。
原作の少佐はグラマラスな「セクシーなお姉さん」なんですが、GHOST IN THE SHELLの少佐はハードボイルドな、「世界最強の鋼鉄の女」って感じです。
声優の田中敦子さんの声を当てた、スカーレット・ヨハンソンさんは原作とGHOST IN THE SHELLの間くらいの印象でした。
・ ゴーストの解釈
攻殻機動隊を理解するために大事なポイントはゴーストの解釈だと思います。
GHOST IN THE SHELLの少佐もゴースト・イン・ザ・シェルの少佐も自分の「ゴースト」について悩みます。
「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」とその続編「イノセンス」のゴーストの解釈は哲学的で難しいですが、一言で言うと「アイデンティティー」なんだと思います。
スカーレット・ヨハンソンさんが演じた少佐はストーリー前半は自分の「ゴースト」について怯えているのが印象に残っています。
ゴースト・イン・ザ・シェルの「ゴースト」の解釈は「過去が自分を作っているのではない、大事なのは今何をするか?」という魅力的なセリフがあるのですが、このセリフこそがこの作品のゴーストの解釈なんじゃないかと感じました。
○ 原作と映像化された攻殻機動隊シリーズの比較
僕が見た事がある、攻殻機動隊を私見で比較してみます。
時系列で古い順から紹介します。
士郎正宗「攻殻機動隊」
これが、すべての原作です。
ページの下の方や、コマの外には細かい注釈文がびっしりと書かれています。
原作は完成した作品というよりは、攻殻機動隊シリーズの面白いエッセンスがギュウギュウに詰まった「ネタ帳」に近いものだと思います。
押井守「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」「イノセンス」
言わずと知れた攻殻機動隊を原作にしたアニメ映画。1作目のGHOST IN THE SHELLは1995年公開。
続編のイノセンスは2004年に公開されました。
世界観の設定等は原作をヒントにしているなあという感じ、映像の美しさとか、ブレードランナー的な世界観のオリジナリティに目が行きがちですが、2作とも主要なテーマは何と言っても「ゴースト」です。
作中に登場する人間(荒巻やトグサ)、体の一部を義体化したサイボーグ(バトー)、完全義体のサイボーグ(少佐)、ゴーストが存在しないはずなのに生命体を主張するアンドロイド(人形使い)を対比させて人間の人間たる所以はどこにあるのか?という事を問う、哲学的な内容です。
神山健治「攻殻機動隊 S.A.C」シリーズ
攻殻機動隊を原作にしたTVアニメシリーズ。
難解な押井守監督作と比べると分かりやすいです。
「公安9課」のメンバーそれぞれにスポットが当てられていて「ゴースト」を主要なテーマにあげていたGHOST IN THE SHELLと違って、このシリーズは「公安9課の活動」を主要なテーマにしています。
黄瀬和哉「攻殻機動隊 ARISE」シリーズ
「公安9課結成前」のストーリーが描かれています。
作中の音楽をコーネリアス(小山田圭吾)が担当しているのも特徴の一つ。
実は、僕はまだ通しで1回しか見ていないので、深くは触れません、、、
※ 後日追記予定
ルパート・サンダース「ゴースト・イン・ザ・シェル」
押井守監督作品「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の影響を強く感じる作品、はっきり言ってオマージュと言っていいような内容。だけど、オリジナルの設定もある。
他の映像化された攻殻の影響は無いのか?というと、そうではなくて、例えば作中に少佐はクゼという容疑者を追いますが、攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIGで登場する「個別の11人」にクゼというキャラクターが登場します。
押井守監督のGHOST IN THE SHELLは「ゴースト」をテーマに、TVアニメシリーズの攻殻は「公安9課の活動」をテーマにしていますが、この作品のテーマは「過去が自分を作っているのではない、大事なのは今何をするか?」というセリフに込められていると思います。
○ まとめ
ゴースト・イン・ザ・シェルはオマージュとしても成功していると思うし、原作にも押井守監督作品にも、TVアニメシリーズにも無かった、オリジナルの要素もあるけど分かりやすく、完成度が高い素晴らしい作品でした。